米・水・麹菌——たった3つの原料から、60日間かけて生まれる奇跡の醸造酒。並行複発酵という世界に類を見ない技術で、日本酒は造られています。
米・水・米麹から約60日間かけて生まれる日本酒。その製造工程は世界でも類を見ない「並行複発酵」という高度な技術に支えられています。
並行複発酵とは?
ワインはブドウの糖分をそのまま発酵させます。ビールは麦芽の糖化が終わってから発酵させます。
しかし日本酒は、麹が米のデンプンを糖に変える「糖化」と、酵母が糖をアルコールに変える「発酵」が同時に進行します。
この並行複発酵こそが、日本酒が醸造酒として世界最高クラスのアルコール度数(約20%)を実現できる理由です。
精米から瓶詰めまで、それぞれの工程に杜氏の技と知恵が凝縮されています。
玄米の外側にはタンパク質や脂肪が含まれており、これが雑味の原因になります。精米機で米を削り、中心のデンプン質を露出させます。精米歩合50%なら米の半分を削ったことを意味します。
精米後は洗米で糠を落とし、適切な量の水を吸わせ(浸漬)、蒸し上げます。蒸し米は外側が硬く内側が柔らかい「外硬内軟」の状態が理想です。
蒸し米に黄麹菌(アスペルギルス・オリゼー)の胞子を振りかけ、約48時間かけて麹を造ります。温度35度前後の「麹室(こうじむろ)」で、杜氏が汗だくになりながら丁寧に管理します。
麹の酵素が米のデンプンを糖に分解する——この糖化の力が日本酒造りの根幹です。「一麹、二酛、三造り」と言われるほど、麹造りは最も重要な工程です。
蒸し米・水・麹に酵母を加えて培養します。「酛(もと)」とも呼ばれ、アルコール発酵を担う酵母を大量に増殖させる工程です。
伝統的な「生酛(きもと)造り」は天然の乳酸菌を利用して約1ヶ月。現代の「速醸酛」は醸造用乳酸を添加して約2週間で完成します。生酛造りは手間がかかりますが、複雑で奥深い味わいを生み出します。
酒母に麹・蒸し米・水を3回に分けて加えていきます。初添え(1日目)→踊り(2日目・酵母増殖日)→仲添え(3日目)→留添え(4日目)。
一度に全量を加えると酵母が薄まり雑菌が繁殖するリスクがあるため、段階的に増やす「三段仕込み」が採用されています。この知恵は数百年前から伝わるものです。
仕込みが完了した「もろみ」は、タンクの中で約20〜30日間かけてゆっくりと発酵します。低温(吟醸造りでは10度前後)で長期間発酵させることで、華やかな香りと繊細な味わいが生まれます。
ここで並行複発酵が起こります。麹の酵素がデンプン→糖、酵母が糖→アルコール。この2つの反応が同時に進行し、世界でも稀な高アルコール醸造酒が誕生します。
発酵が終わったもろみを搾って(上槽)、液体の「清酒」と固体の「酒粕」に分離します。搾り方には、機械搾り・袋搾り・槽搾りなどがあり、それぞれ異なる味わいを生みます。
搾った酒は約65度で加熱処理(火入れ)を行い、酵素の働きを止め品質を安定させます。火入れをしない「生酒」はフレッシュな味わいが魅力。その後、貯蔵・熟成を経て瓶詰めされます。